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小道具倉庫の一室にて

今回の「撮影所の人々」は、持ち道具歴21年の上田耕治さんです。

映画美術の仕事のひとつである「装飾」は、
セットの背景に生活道具を並べたり、役者の持つ時計や靴を用意したりと、
場面や人物像に厚みをつけていくのが仕事。
いわゆる小道具と言われる分野です。
そのなかでも「持ち道具」は、帽子や手帳、靴、
あるいは鎧(よろい)や刀などのような、役者周りの道具を扱います。

装飾の場合、それらの道具を自分で作らなければならないことも多く、
細部にまでこだわって道具を作るその姿勢は、よく「職人」にたとえられます。
実際、その内実はたしかに職人気質がないとできず、
とりわけ上田さんの場合は、伝統ある京都撮影所での持ち道具の役割に、
独自の領域を築き上げてきた感があります。

映画製作に関心があるなしにかかわらず、
仕事を通して自分を表現することになんらかの関心のある方々に、
読んでいただきたい。そんなインタビューになりました。

まずは、持ち道具の仕事の内容から、お話ししていただきましょう。

上田耕治さんプロフィール

──

今日はありがとうございます。
ここが上田さんの仕事場ですか?

上田さん

そうですね。

──

雑然というかなんというか、表現しがたい感じなんですけど・・・

上田さん

まあ、雑然としてますよね(笑)

──

えーっと、ここで仕事をされるわけですよね?
どういう仕事をなさっているのでしょうか?

上田さん

えー、まず、ここはいわゆる小道具倉庫ですね。
撮影所には小道具倉庫が山ほどあるんですけど、ここはそのひとつです。

僕たちは組単位で仕事をするので、
どこの組に入るか(作品に就くか)が決まると、
組ごとに、倉庫内で机が割り当てられるんですね。
で、いまは、ここに僕の机もあると。

──

上田さんの机もあるんですか?

上田さん

はい、僕の机はこれですね。

──

あ、これですか。何ですか、これ(笑)
「ONE PIECE」のグッズがすごいですね。

上田さん

そうなんです。最近、ちょっと、集めてて(笑)


机の前の壁にONE PIECEのグッズがずらり!ちなみにこれらのグッズは、東映太秦映画村で購入できます。

──

すごい個性的な机ですね!

上田さん

はははは!
小道具の人間って、めちゃくちゃ個性的な人が多いんですよね。
あ、ほかの人の机を写真に撮っちゃだめですよ。

──

だめですか?

上田さん

やめときましょう。みんな、病んでるんで。

──

病んでるんですか。

上田さん

ははははは。
そう、病むんですよ、この仕事。
まあいいや、話を戻しましょうか(笑)

えっと、で、東映京都撮影所の場合、僕たち装飾の仕事というのは、
テレビだと2人1組、映画だと3人1組で仕事をするので、
ここに並んでいる机は同じ組の人の机ですね。

こちら、同じ装飾の三木雅彦さんです。


装飾部のベテラン、三木雅彦さん。取材時の数日前まで、上田さんと『灰色の虹』(テレビ朝日)の撮影に取り組んでいた。

──

どうも、お邪魔しております。

三木さん

どうも。

──

では、三木さんと上田さんのペアでお仕事をされていたわけですね。

上田さん

そうです。三木さんは、装飾の責任者として「飾り」といわれるものを担当し、
僕は「持ち道具」といって、主に役者まわりの道具を担当します。

三木さん

そう。だから、美術監督(デザイナー)が図面を描いてきたら、
そこにあるものを全部用意するのが僕ら装飾の仕事で、
飾りはそのうち、たとえば部屋のセットなら、
タンスや家具やカーテンや電球、ポスター、本といった具合に、
セットに生活感をもたらす道具を担当するんです。
持ち道具は、たとえば現代劇なら、帽子やカバン、メモ帳、ティッシュ、時計とか、
時代劇なら刀、草履、杖、鎧とかといったもので。

上田さん

そう。だから持ち道具は、昔は「装身具」と呼ばれていたんですよ。

──

へえ。分かりやすいですね。

三木さん

ただ、実際には、たとえばサスペンスものなら、
「毒の瓶」とか「首を吊るロープ」とか、
必要なものがいろいろ出てくるので、
それらは状況に応じて割り振ったり、一緒に準備したりという感じです。

──

お仕事の流れとしては、具体的にどんなふうに?
「台本を読んで、必要なものを書き出して」という感じ?

上田さん

はい、それもやりますし、まずは勉強ですよね。

台本を読むときは、「どんなものがあれば、その役柄や場の雰囲気を出せて、
芝居の世界を成立させられるか」というのを考えながら読むんですね。

現代劇は比較的楽ですけど、
時代劇は僕たちが生きたことがない世界を描くわけだから、
役柄や時代背景に応じてどんなものを用意したらいいのか、徹底的に調べるんです。
インターネットも使うし、資料館にも行くし、本も読むし、
詳しい人のところに足を運ぶ。

倉庫の中をぐるぐる歩いて、「これを使ったらおもしろいんちゃうかな」と
自分なりにイメージを組み立てたり、
ありもんで間に合わなかったら、
入手先を調べ出して問い合わせて企画書を送って、みたいなこともやります。

でも、僕はけっこう、自分で作ってしまうほうですね。

──

自分で作ってしまうほう。

上田さん

そうですね。手に入らないものは、自分で作ってしまう。
たとえば、何かあるかな・・・。

ああ、あった。これね、以前作った、鳥の死骸です。

──

すごい!リアルですねえ。

上田さん

ありがとうございます。これはまあ、なかなかの力作ですね。

これはテレビ朝日さんの『SP〜警視庁警護課』用に作ったんですが、
台本に、「郵便受けを開けたら、ジュウシマツの死骸が入っている」
とか書いてあるんですよ。
買ってきて殺すわけにはいかないじゃないですか。
「じゃあ、作ろうか」ということで、
発泡スチロールに、鶏の羽だったかな、を用意して、図鑑を見ながら作ったんです。
三木さんと一緒に、「羽の生え方が微妙に違う」
「あ、足はこうですね」「濃い足やなー」
とか言いながら、針金を曲げたりして。

──

はー

上田さん

だから、作っているときはだいぶ病んでますよねえ(笑)
できた当初はもっとクオリティが高かったんですけど、
ちょっと羽がしおれてきちゃいましたね。

──

ははは。なんだか、「病む」感じがわかってきました。

上田さん

そう、病むんです(笑)

──

机や棚を拝見すると、ペンチやテープ、ドライバーといった
工具類がたくさんありますが、こういうもので作るんですか?

上田さん

そうです。これらは全部マイ道具ですね。
自分なりに使いやすいものをそろえています。


机の上にあったドライバーや耳かき、カッターなどは全部、小道具づくりの道具。


スプレーや接着剤、テープ類もたくさん。

──

このリアカーは、ひょっとして現場に道具を運ぶときのものですか?

上田さん

そうです。これがまた原始的なリアカーなんですよねー。
むちゃくちゃ重いんですよ。

──

たしかにかなり重そうですよね。

上田さん

でもね、この荷台の中身は、けっこうこだわりがあるんですよね。

──

こだわり?

上田さん

そう。現場で何かあったときに役立つものは、たいていこの中に入っているんです。
ロケ先に自動販売機があるとき、そのメーカー名を隠す紙とか、
急に汚しが必要になったとき、汚すための道具とか、
火が必要になったときに火を付ける道具とか。

──

へえ。万事完璧なように。

上田さん

そうですねえ。ちなみにこれ、単に投げ込んであるように見えて、
置き方が決まっているんです。

──

え? これで置き方が決まっているんですか?

上田さん

そうそう。「俺仕様」なんです。
だから、現場で誰かが触ったら、すぐ分かるんですよ。

──

ああ、そうなんですね(笑)


リアカーの荷台に載せてあった道具。ただ詰め込んでいるように見えるが、
上田さんとしては、秩序だてて置いているらしい。

──

ははは。そうなんですねえ。
でも、火を付けるのも装飾の仕事なんですね。

上田さん

そうなんですよ、残念ながら(笑)。
火を付けたり、朝霧をたなびかせたり、雨を降らせたり、
雪を降らせたりするのも装飾なんですよね。
そういうことは、持ち道具か出道具かは関係なしに、一緒にやりますね。


火事を作ったり雪を作ったり雨を降らせたりするときに使うというガスや洗剤など。
小道具倉庫はなんでもある!


こちらは書状類。時代劇の写経のシーンなどで使われる書状がたくさんある。


旅の演出に欠かせない杖もこんなに!「ロケ先でよさそうな棒が落ちていたら拾ってくるんですよね」と上田さん。どこに行っても、常に小道具の目でものを見てしまうそうだ。


とにかく、てんこ盛り!

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