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今回は、1990年に東映京都撮影所に入って以来、
数多くのテレビ・映画作品に関わってきたスクリプター、
谷慶子さんにご登場いただきます。

スクリプターは「記録」ともいわれるように、
台本読みから撮影、編集・仕上げまで、
ドラマづくりのひとつひとつを記録・管理するのが仕事。
大勢の人間がそれぞれの持ち場で関わる製作現場において、
記録は、一本の作品を作り上げる礎となり、
各パートをつなぐコーディネーター的な役割をも果たしています。

また、谷さんは、スクリプターとしてだけではなく、
2003年には自ら書いた脚本が第29回城戸賞で準入賞、
テレビドラマの脚本・演出を経験するなど、活躍の場を広げています。
インタビューでは、そこに至るまでの苦労やよろこび、
東映京都撮影所や、これからの映画づくりについての熱い想いなど、
さまざまに語ってくださいました。ぜひ、お読みください。

谷慶子さんプロフィール

──

今日はありがとうございます。
たくさんお聞きしたいことがあるのですが、
まずは「スクリプター」という聞き慣れないお仕事について
ご説明いただいてもよろしいですか?

谷さん

そうですね。えーっと、ひと言ではとても言えないですが、
あえて話すと、つなぎ屋さんという表現を、たまに使うんですね。

──

「つなぎ屋さん」?

谷さん

そう。映画やテレビの撮影は、
台本に書かれたシーンの順番どおりに進めるわけではないし、
各シーンは細かくカットで割って撮影して、
編集段階でそれをつなぎ合わせるというのが普通なんですね。

カットとカットをつなぐときに、その前後で、
たとえば俳優さんのコップを持つ手が右手から左手に変わっているとか、
2個しか開けてない洋服のボタンが全開になっていたとかだったら、変ですよね。
だから、そのひとつひとつをチェックして、記録しておく必要があるんです。


製作現場ではスクリプターは監督のそばに常に寄り添い、必要なことを細部にわたって記録する。
写真中央の赤いジャケットの女性が谷さん。村上弘明主演『銭形平次』(テレビ朝日)の現場にて

──

具体的に、どんなふうに記録をするんですか?

谷さん

現場で「用意スタート!」がかかったら、
ストップウォッチでタイムを計り、
俳優がどのタイミングでしゃべって、どのタイミングで立ったか座ったか、
キャメラのサイズはどうだったかとかを、全部、見るんですよ。

ほかにも、NGが何回出て、OKは何回目か、
それぞれのタイムはどれくらいか、
俳優の台詞や衣裳や髪型まで全部チェックして、1カットに1枚ずつ、
「編集リスト」と呼ばれる専用の用紙に書き込んでいくんですね。

──

そんなに細かいところまでチェックするんですか!

谷さん

でないと、編集したときに変なことになっちゃうんで。
で、続きのカットを撮影するときに、
「前回はこうだったんで、このタイミングでしゃべってください」
とかをお願いする。

──

へー。大変な集中力が要りますよね。

谷さん

ま、完璧ではないですけどね(笑)。これがその編集リストです。

谷さん

さらに撮影が終わったら、毎日、
これを整理して編集部に送るという作業があるんです。

1日で、たとえば60カット撮ったとしたら、この用紙が60枚になりますよね。
その60枚分のカット数やタイム、何回NGで何回目がOKかといったことを、
一目でわかるようにインデックス化して、編集部に送るんです。
編集部の助手さんがそれを見れば、ロールの中にどういう順番で入っていて、
何回目のOKを取り込めばいいか、ということがわかるんですよ。
その専用のシートがこれ。私たちは「ネガ送り」って言っているんですけど。

──

なるほど。すると、編集部の人は、
この「ネガ送り」と「編集リスト」を読んで作業する。

谷さん

はい。それでそのときに大事なのは、
監督はどういうふうにつないでほしいかということだから、
スクリプターはそれを伝える必要があるんですね。

たとえば、男女が見つめ合い、「好きだよ」と男性が言うシーンがあるとする。
撮影は普通、一方向からだけをまとめて撮って、
切り返して反対方向を撮るというやり方なので、
男性側からと女性側から、両方の画をそれぞれ撮って、
編集で要らない画を捨てるとしますよね。

そうしたら、その「好きだよ」の台詞のときに、
男性の画を見せるのか、女性の画を見せるのか、
というのは、監督の感性次第ですよね。
スクリプターは、現場で監督がどう言っていたかを、
この編集リストに書き留めて、編集マンに伝える必要があるんです。

──

スクリプターは、現場と編集をつなぐ仕事、でもあるんですね。

谷さん

そう言えるかな。とにかく、現場では、
編集したときに変なことにならないよう、あらゆることをチェックするし、
現場での変更点や監督の意図を編集にしっかり伝える、というのが仕事です。

でも、ほんとはそれだけではなくて。
今までの話は、クランクインしてからのことだけど、
イン前の準備でも、やることがたくさんあるんですね。

──

たくさんあるんですか?

谷さん

まず、決定稿(台本)が届いたら、尺を出すんです。つまり、タイムの割り出し。

たとえば、テレビ朝日の『科捜研の女』だったら、
放送枠は45分10秒と決まっています。
すると、台本が50ページあるとすると「1ページあたり54秒になるな」
という計算を、まずはするんですね。

となると、単純計算で、このシーンは5.4秒、10.8秒という具合に
シーンごとのタイムが割り出せます。

──

そのタイムが、撮影時の目安になる?

谷さん

そうですね。それで撮影が終わったら、その日撮ったものが
編集するとだいたい何分ぐらいになるかというのを、
自分なりに計算するんですね。
「このカットは15秒間撮っていたけど、
編集すると5秒くらいになるだろうな」とか。

その結果、目安のタイムをオーバーしてしまいそうだったら、
それ以降の撮影を短めにしてもらったり、
逆に足りなかったら芝居を増やしてもらうとかをするんです。

──

「編集すると◯秒になるな」という作業は、
監督や助監督ではなく、スクリプターがするんですか。
どれくらいの時間、その画を見せるのかというのは、
ドラマづくりにおいては、けっこう重要な仕事だと思うのですが。

谷さん

そうですね。でも、私が「決める」わけではなく、
タイムの目安を出しているだけなので。

──

でも、「目安を出せる」というのがすごい。
演出の視点がないとできないような気がします。

谷さん

うーん、そうですか?何でしょう、長年の経験と勘?(笑)

でも、「監督はこのカットをこういうことを伝えるために撮りたいんだなあ」
というのは、台本を読み込んだり、監督の話を聞いていればわかるんですよ。
そうすると、「このカットはだいたい何秒ぐらい使うな」という計算ができる。

たぶん、照明の安藤さんとか、キャメラマンの津田さん、
録音の松陰さんとか、それぞれいらっしゃるけど、
「このカットはだいたいここを使いたいんだ」というのは、
誰が見てもわかると思うんですよ。
それがまあ、この撮影所の不思議なところだし、すごいところで。

──

その皆さんの暗黙知を、正確な時間で計算している。

谷さん

そうかもしれませんね。

──

スクリプターは、「監督の秘書」とたとえられることがありますよね。

谷さん

そうです。製作全般において、監督とべったり仕事をしますから。
だから、いま話したことのほかにも、イン前は、衣裳合わせに出て、
シーンごとの衣裳を確認して、うまくつながるかどうかもチェックするし、
事前に音を録音するプレスコがある場合は、
タイムの割り出しを正確にやって、それに付き合ったりします。
クランクアップしてからも、編集やダビング(整音)の作業に立ち会う。
もう、だから、映画づくりのすべての作業に関わるんですね。


編集室で編集作業をチェックしている谷さん。スクリプターは、すべての行程で監督に付き添い、
一切の処理を助ける、映画製作の要ともいえる役割を担っているのだ。

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