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撮影スケジュールを確認している山下さん。職場である演技センター事務所(俳優会館1階)にて

──

今回は、そもそも演技事務というのはどういうお仕事なのか
というところから、教えていただいてよろしいですか?

山下さん

演技事務というのはね、僕が俳優をやっていた頃は
俳優係と呼ばれていました。そのことからもわかるように、
担当する作品に出演されるすべての俳優さんと、
製作現場をつなぐ仕事なの。

──

もう少し具体的に教えていただけますか?

山下さん

台本ができると、製作進行の担当者が、
撮影の総合スケジュール、1日の撮影スケジュールを作るわけ。
演技事務の仕事は、そのスケジュールを見て、
各俳優さんの所属事務所に連絡をする。
「何時までに入ってください」とか、
「今日は京都で一泊お願いします。明日の夜には東京帰れますので」とか、
そういうことを、それぞれの事務所と俳優さんに伝えるわけです。

簡単に聞こえるけど、間違えると現場に人がそろわず、
撮影ができないわけだから、けっこう神経を使う仕事なの。
撮影は予定通り行くことが、まずない。
「雨だから今日の予定は後回しして、先にこっち撮ります」とか、
朝9時開始が8時開始になるとか、急な変更は当たり前です。
その度に、現場を待たせないように調整していくのが僕らの仕事。
連絡する順番ひとつとっても、間違えれば大変なことになるんです。


この日は雨のために予定が変更された。1日変わるとその後の予定も全部変わる。
改訂スケジュールに目を通し、シーンと場所にチェックを入れている。


予定変更を伝える電話をかける山下さん。

──

朝8時撮影開始の場合、演技事務は、
何時に撮影所へ入られるんですか?

山下さん

朝からある場合はだいたい6時には入っています。
俳優さんを迎え入れて、楽屋へ案内して、
スケジュールを伝えて、準備ができたら現場へ送り出す。

撮影の間、僕らは明日の流れを確認したり、連絡をしたりする。
俳優さんたちが帰って来たら、お迎えして、
ホテルなどへ見送るまでは仕事です。

要は、俳優さんたちが気持ちよく演技に集中できるような環境を、
ちゃんと段取りして作ってあげるのが僕らの仕事。
だから、「宿屋の番頭とか、アテンダントみたいな仕事だ」と言うんだけど(笑)

──

気をつかいますよね。

山下さん

ほんと、そう!
優雅にしていても水面下では足をバタバタさせている白鳥みたいなもんですよ。
あ、僕に白鳥は言い過ぎか。アヒルだ、アヒル(笑)

──

(笑)。それにしても、わかりづらい仕事でもありますよね。

山下さん

僕たちは現場に行くことがほとんどないから、
「演技事務なんて、事務所でしょっちゅう茶を飲んでるだけだろ?」
とか言われるんだけど、僕としては
「それは仕事がうまくいっている証拠」なんです。

演技事務が目立つのは、俳優がそろわないとか、
改訂(スケジュール)が行き渡っていないとか、何かトラブルがあったときだけ。
だから、目立たないことが、仕事が滞りなく進んでいる証拠。
「あれ?この作品の演技事務って、誰が担当だったっけ?」
と現場スタッフが気にならないくらい、
現場の陰で必死に動くのが僕らの仕事なの。

──

陰だけど、その仕事がなかったら、現場はスムーズに動かない。

山下さん

そうです。


演技センター事務所を廊下から。俳優会館に入ると、最初に目に入るのがこの風景。
皆さん、決してお茶を飲んでいるだけではないのである。

山下さん

あとはもうひとつ、
連絡以上に大切な演技事務の仕事に、
エキストラキャスティングがあるわけ。

──

エキストラキャスティング?

山下さん

たとえば時代劇だったら、名前の付いた役の人だけでなく、
町人とか門番とか、役の付かない人までさまざまにいますよね。
役の付いた人は、製作やプロデューサーがキャストを決めるけど、
役の付かない「男1」といった仕出しの人や、その他大勢は、
演技事務がキャスティングしてそろえるんです。

シーンに応じた“らしい人”をちゃんと用意して、画面に効果を出す。
いわば、エキストラキャスティングが、
画面に表れる唯一の演技事務の仕事ともいえるわけ。

──

へえ、そうなのですね。
東映剣会のメンバーが斬られ役とかで出ていることがありますが、
あれは演技事務が手配するんですか。

山下さん

役でなければ、そうです。
剣会だけじゃなく、大阪や京都の芸能事務所から集めてきます。
それも、「明日13時に、若いのを50人お願いできる?」
とかいう感じで、いきなり入ってくることがあるんだけど、言われたらやるしかない。
それが僕らの仕事だから。
それに、場面に応じた人をそろえて効果を出せたら
やっぱりうれしいでしょ。それがこの仕事の楽しみなんです。

──

そうですよね。仕出しやエキストラといった役以外の人たちは、
画面づくりを大きく左右する部分でもありますもんね。


製作からの連絡を受け、何曜日に何人のエキストラが要るのかが書き込まれるボード。
取材中に「明日、60人要る」という連絡が入り、そんな人数をどうやってそろえるのかと思ったが、
皆さんが、さも日常といったふうにふるまっていて驚いた。


ホワイトボードの隣には、出演可能な専属・他事務所の俳優たちの名札が掛けられている。
誰をどこに入れるかを、各作品の担当演技事務と相談しながら決めて、作品ごとに名札を掛け直す。
ただいま相談・調整中。それにしても、この名札形式は一目瞭然でわかりやすい。

山下さん

そう。役だけじゃ、ドラマは絶対成り立たないからね。
ただね、エキストラキャスティングを演技事務がするというのは、
たぶん、ウチだけなんです。
もとは専属の俳優をたくさん抱えていた時代に生まれた仕事だから、
専属俳優がなければ、この仕事もなくなる。
いま残っている撮影所で、専属がいるのはウチしかいないので、
ほかはどこもやってないと思いますよ。

──

そうなんですね。いわゆる「撮影所システム」と言われる
伝統のひとつでもあるんですね。

山下さん

そうです。でもね、がんばって大人数そろえて、
「これでどうだっ!」と自信を持って送り出すのに、
現場で、その人たちをうまく使い分けない助監督さんがいるんですよ。
時代劇でバンバン斬られた後に、カメラを切り返したら、
今度は攻める方に同じ人がいたりね。
「それじゃあ。人をそろえた意味がないでしょ」みたいな(笑)

──

ありそうですよねえ(笑)

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