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「科捜研の女」(テレビ朝日)の現場にて

──

Part.3の続きから) 
「聞こえなくても「そこにある」音」とは、
どういうことですか?

松陰さん

(『男たちの大和/YAMATO』以下、『大和』について)
たとえば、ものすごい爆破音が「ドカン!」したとする。
そうすると、「みんな即死だし、悲鳴を言う暇もないだろう」
ということで、普通は入れないんですね。

でも、音はきっと「ある」でしょう。

ほかのところにいた特年兵が悲鳴をあげたかもしれないし、
「ドカン!」という音の中には、
ものが崩れる音、きしむ音、悲鳴、うめき声、
そういったものが本来あるんだと思う。
あまりの爆破音で人の耳には「聞こえない」としても、
「生じている音」がきっとあるだろうと。
それを想像して、全部加えていったんです。
スクリーンで聞いても聞こえないほどの音だけど、
ちゃんと入れているんですね。

──

聞こえない音を積み重ねている!

松陰さん

そう。その積み重ねで音圧を上げていった。
それが、皆さんがおっしゃってくださる「臨場感」に
なったんだろうと思います。

──

すごいですねえ…。だんだん言葉が出なくなってきました。

松陰さん

はは(笑)。結局ね、こだわりですよ、自分の。
美術の松宮さんでも、照明の安藤さんでも、みんなそうだと思う。

「他人が何と言おうが自分はこうだ」
と思う部分に、こだわるかこだわらないか。

僕らは目に見えないものを扱っているわけやから、
それをやったからといって、
画を扱う人ほど大きくは変わらないんだけどね(笑)

──

でも、こだわるのは

松陰さん

自分が納得するためです。

納得してやったことは、勉強になるでしょう。
「ああ、こうすると、こうなるんだ。次はこんなふうにしてみよう」とか、
「あ、こういうことをしてみたらおもしろいかな」と、
作品の度に、僕らは勉強を積み重ねていくんです。

──

ここまでお話を聞いてきて、映画人が「職人」
と呼ばれるのがわかる気がしてきました。

松陰さん

いやいや、結局、監督がすごいんですよね。
『大和』も、佐藤純彌さんがOKしてくれるからやれるんでね。

『大和』では、仕上げているときにけっこう音を作ったんですね。
たとえば、いよいよ大和に乗船しようと内火艇に乗り込んだ、
山田純大さん演じる唐木正雄が、
奥さんと子どもを桟橋で見つけて、
「ともえー!かずおー!」と叫んで最後の別れをするシーンがあるでしょ。
山田さんが、手を振りながら叫んで、その手を振り下ろす。
そのタイミングで、
僕はもう一回「かずおー!」と長い叫び声を入れたんです。
そしたら、それを観た純彌さんがひとこと、

「女々しい」

と。で、結局外すことになった。
僕は「これで絶対泣ける」と思ったのにね(笑)

──

へえ、そうなんですか(笑)。でも、そんなことまでするんですね。

松陰さん

そう。編集されて画がなくなっちゃったけど
「いいセリフが録れてるから入れてしまおうかな」
という感じで付け足した音も、けっこうあるんです。

──

映画がそんなふうにできているなんて、
まったく知りませんでした。
いやあ、録音技師の仕事って奥深いですねえ。
そんな発想がどうやって生まれてくるのかと興味深いです。

松陰さん

僕の場合は、いい監督に恵まれましたよね。
助手時代には浦山桐郎さん、五社英雄さん、岡本喜八さんとも
一緒に仕事をさせてもらいました。
『憑神』でご一緒した降旗康男さんも、音のセンスは抜群だし。

──

時代劇と現代劇では、
音を録るうえで違いはあるんでしょうか?

松陰さん

あります。第一、セリフ回しが違うでしょ。
僕、ときどきセリフ直しを頼まれることがあるんです(笑)。

──

え?

松陰さん

『魔界転生』(2003年、平山秀幸監督)で、
麿さんが徳川家康になって甦るシーンで、
「戦乱の世がわしを呼んでいる」
と言うところがあるでしょ。あのセリフは僕が作った。

──

えーーー!

松陰さん

『憑神』では、主役の妻夫木聡さんが、
時代劇の経験が少ないから、
特有のセリフ回しでのアドリブが、充分にできないでしょ。
それで僕のところに来て、
「こういうことが言いたいんですけど…」
と尋ねてくるんです。だから、
「武士の身分だし、こうこうこう言ったら」
と相談にのったりしていました。

──

えー!それって、録音の仕事ではありませんよね?!
ひょっとして、録音がセリフとずっと格闘している仕事だから、
だんだんわかっていくんですか?

松陰さん

まあ、それもあるし、
若いときから自分で調べる癖が付いていたから。
僕は時代考証事典なんかも自前で持っているんです。

そういうのは、録音の仕事とは関係なく、単純に僕の性格的なもの。
知っておくべき常識を他人に指摘されるのが、
嫌なんですよ。

──

すごい…。やはり、東映京都撮影所の皆さんは、
それぞれに時代劇には思い入れがあるんですねえ。

松陰さん

僕よりすごい人は、なんぼでもいますよ。

まあ、かといって僕は、
正統の時代劇に固執する必要もないと思っています。
頭でっかちにならず、
「いい芝居を創ろう」という純粋な気持ちで
新しい試みに挑戦していくことは大事だと思うんです。

──

「次に関わりたい作品は」と聞かれたら…

松陰さん

やっぱり時代劇ですね。作る機会が減っているし、
まだ、やらなきゃいけないことがたくさんあると思いますから。

完

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