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「科捜研の女」(テレビ朝日)の現場にて

──

それにしても、いろいろなパートがあるなかで、
松陰さんはどうして録音を選んだのでしょうか?

松陰さん

もともと「音」には関心があったんです。
高校を卒業して、なんとなく映像関係の専門学校に入って、
映画は好きだったけど、仕事としてはあまり関心がなかった。
当時は「ラジオをやりたいな」と思ってました。
FM局が日本にまだ5局くらいしかなかった頃で、
これから増えていくだろうし、好きな音楽をかけて
5、6人で番組できたらいいなあって。
映画と音が結びついたのは、知人から
『東映の録音部の仕事をやらないか』と電話がかかってきたときです。

──

東映とつながりがあったんですか?

松陰さん

学生時代にアルバイトで、
舞台照明とか音響とかを手伝っていたんですよ。
そこで知り合った人のつながりで、声をかけていただいた。
おもしろそうだし、「この話を蹴ったら、次はないだろうな」と思って
入ってみることにしたんです。

──

そうして結局、30年…ですね。

松陰さん

そう、気づけばもうけっこう古い人間だよね(笑)
僕が入ったのはテレビの時代劇スペシャルが増えた時期で、
今はなき東映京都テレビプロで契約としてスタートしました。
大川橋蔵さんの『銭形平次』とか、里見浩太朗さんの『長七郎天下御免』とか、
高橋英樹さんの『桃太郎侍』とかで、マイクを持ってましたね。

──

大物俳優ばかりですね。

松陰さん

そう。入ったばかりの頃って、何もわからないからさ、
僕のNGが、1カットで5回くらい続けて出るんですよ。
やれ「マイクが出た」だの、「影が出た」だの。

そのせいで、橋蔵さんや英樹さんがもう一度演じてくれるわけでしょ。
そりゃ、緊張なんていうもんじゃない。泣きそうになってたよ。
でも、誰も代わってくれないんです。
「松陰、お前、ええかげんにせいよ」と怒るだけで、何度もさせられる。
そのときはしんどかったけど、
今となっては「時代がよかったんだなあ」と思いますね。
今じゃそこまでやらせてくれないから。
そうやって若い人を育てたんだな、と思いますよね。

──

松陰さんは、『男たちの大和/YAMATO』(以下、『大和』)で
日本アカデミー賞最優秀録音賞を受賞されましたよね。
素人ながら、戦闘シーンの効果音、セリフの迫力など、
臨場感のある音の演出がすごい作品だったなあ、と思っています。

松陰さん

そう、あの作品は、
多くの方から「臨場感がある」と言っていただいて、
自分としても関われてよかった作品でした。

『大和』は、美術の松宮敏之さんの話に出てきたように、
実物大の大和を造った壮大なスケールの作品だったでしょ。
セットに臨場感があるんだから、
「場の雰囲気を活かした音が録りたい」
という気持ちが最初からあったんです。
といっても、戦闘中のシーンはさすがにシンクロでは録れない。

戦闘シーンで中心的な存在となる三連装機銃は、
ちゃんと発火するし、音も鳴るんですね。
映画用のガンエフェクトを作る専門集団「BIGSHOT」の
チームが開発したんだけど、
尾道中に響き渡るほどのすごい爆音で、
とてもじゃないけど、セリフなんて録れないんです。

まあ、それは分かっていたから、
「戦闘シーンはオンリーでいこう」と台本を読んで決めていた。
シンクロはできなくても、画を撮った直後にその現場で録れば、
役者のテンションを維持したまま録れると。

対して、鈴木京香が演じる現代のメインとなる漁船でのシーンは、
全部アフレコでいくことにしたんです。

──

アフレコで?

松陰さん

舞台が漁船での芝居になるから、シンクロやオンリーにすると
エンジン音がずっと入ってしまうでしょ。

戦闘シーンは爆音などが入ってうるさくなる。
そのうえ現代のシーンまでうるさいのは、
映画全体の仕上がりを考えたときにメリハリがない。

アフレコで録ると、エンジン音を好きな音量に調整できるし、
無音にすることだってできるんです。

ドキュメンタリーと違って、画と音がリアルに合っている必要はないんですね。
聞かせたいセリフのところで、
しているはずのエンジン音をふっと消すことで、
観客にセリフを印象づける、
といったことも自由にできるでしょ。

──

まさに「音の設計」ですね。
実際には、どういうふうにオンリーを録っていったのですか?

松陰さん

100人近くの特年兵が闘うシーンになるから、
すべてのカメラに助手をつけて、
どの画で誰が何を言ったかを全部チェックしてもらったんです。

そして、画で「OK!」の声がかかったら、
「はい、じゃあ次、オンリーください」と言って、
すべての役者に、さっきOKが出た演技をもう一度繰り返してもらう。
それを次から次と録っていくんです。

──

主な役以外のオンリーも全部録ったんですか?!

松陰さん

はい。画面の隅っこで死んでいった特年兵の悲鳴とかも、
全部本人の声を使ったんです。
だって、彼らも役なんだから、「声は使ってあげたいな」と思って。
まあ、整音のときに、誰がどの声だったか探し出すのが大変だったけど(笑)。
彼らには喜んでもらいましたよ、
「あんな小さなところなのに、ちゃんと自分の声が入ってる」って。

──

すごい…。戦場の効果音はどうしたんですか?

松陰さん

効果音は、日本の効果マンの中でも有名な
柴崎憲治さんが担当されました。
柴崎さんが音を創り、僕が録っていく。
撮影後では、効果アフレコが効果部との仕事で一番大事な時間ですね。

あと、あれだけのセットだったので、
大勢の乗組員があのセットを走ったり、
階段を上がったり下りたりする足音は全部オンリーで録りました。
ああいう音を録る機会はなかなかない。
そういう意味でも、実物大のセットに相当助けられましたよね。

それと、あのセットを作った場所には、左舷側に裏山があったから、
セリフを叫ぶと裏山に反射してエコーがかかるんです。
本来は海の上だから、音が抜けてエコーなんてかからないはずでしょ。
「しまったな」と思った。
でも、聞いてみると、エコーがあったほうが広さを感じるんですよ。
だから「これは使えるな」と思った。

──

そういうところまで気を使うんですね。

松陰さん

うん。で、逆に艦内のシーンは絶対反響させないようにしました。
セットは木造だけど、本来の大和は鉄だから、
木造の反響音がかかっているのが許せないんですね(笑)
だから、極力エコーが入らないようにして、
あとで鉄の反響音を付けていったんです。

──

はー、すごい。そういったひとつひとつが、
あの臨場感を作ったわけですか!

松陰さん

そう。そのまま録っても「リアル」にはならないんです。
映画の音は、デフォルメしてはじめて「リアル」になる。

僕も『大和』を経験してわかったのは、
あれだけの臨場感を出せたのは、
聞こえなくても「そこにある」音を全部入れてみたのも
勝因だったなあと思うんです。

──

聞こえなくても「そこにある」音?

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