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──

最後に時代劇の照明について
お話を聞かせていただければと思います。

安藤さん

時代劇は、自分たちが生きていない世界を描くという意味では、
空想の世界なんやね。
その空想の世界を、いかにリアリティある世界として描いていくか。
そこが現代劇とは大きく違うんやね。

たとえば時代劇には電気がない。
夜の明かりは、ろうそくか月明かりしかない。
でも、ろうそくの光では暗すぎてカメラに映らない。
だから、いくつかのライトをデフォルメして、
あたかもろうそくだけが光源であるかのように作っていく。
同じ夜でも、ろうそくの灯りが消えた寝静まったシーンだったとすると、
障子から漏れる月明かりをイメージして、
大げさでないように夜の世界を作っていく。

──

なるほど。

安藤さん

だから、ろうそくが光源の場合は、
ライトの高さは必然的にろうそくの高さになるんやね。
蛍光灯のような上からの明かりがないわけだから。
でも、最近は時代劇を撮らなくなって、
セオリーがわからない人が増えて残念だよね。
平気でトップライトを使う人がいるんだから。

──

時代劇ではトップライトを使わないんですね。

安藤さん

使わない…というか、少なくとも俺は使いたくないと思っている。
俺は「こうすべきだ」とかあまり主張はしたくないんやわ。
結局のところ、観る人が違和感なく観てくれたら、それでええと思うしね。
でも、上から当てた光について、「俺は」違和感を覚えるわけ。
というのも、上からライトを当てると、
俳優さんの月代(さかやき)が目立つでしょ。
あそこは地肌ではなく布なんだから、そこを目立たせたら、
「カツラだ」というのが一目でわかっておかしいでしょ。

──

そうですねえ。たしかに、テレビ時代劇で
俳優さんのカツラが目立ってしまっているのが気になることがあります。
でも、観る側も「そういうものだ」と気にしていないところがありますよね。

安藤さん

うーん、そうかもしれないね。

──

昔に比べるとぐんと時代劇が減ってしまいましたが、
最後に、その辺をどう感じてらっしゃるのか教えてください。

安藤さん

やっぱりちゃんとした時代劇を作りたいと思うよね。
よく「時代劇を大事にしなきゃ」というけれど、
じゃあどうして時代劇が大事かというとね、
時代劇は、スタッフの力量、俳優の力量、すべてが問われるということなんや。
衣裳や結髪では、時代ごと、身分ごとの容姿の知識、
俳優なら、武士の心得や所作、殺陣。
美術なら、身分の違いによる住まいの違い、その時代に応じた空間づくり。
照明なら、照明のない時代の映像を作り出す技術。
どのパートでも、時代劇によって磨かれる技というのがある。
生きていない、想像の空間をリアルに作り上げるというのは、
それだけ大変なことなんや。

そして、ありがたいことに、京都ではその匠の技が受け継がれているわけや。
今度は、自分たちが後の人たちに伝えていかないといけない。
そう思うけど、時代劇を作らなかったらそれができないでしょ。

──

今の照明部には、何人くらいいらっしゃるのですか?

安藤さん

7人くらいかな。一本立ちしている後輩も4、5人いる。
何にも教えてないけど、俺の照明はよくわかってるから、
俺が、時間がなかったりしてちょっと適当な仕事をすると、
「安藤さんらしくない照明してるなあ」って。
彼らにはわかるんやね(笑)


取材中、安藤さんの後輩の照明技師の方々にばったり遭遇した。
左から川南秀之さん、安藤さん、東田勇児さん、杉本崇さん。

安藤さん

でも、彼らの後を継ぐ人がいないよね。
まあ、これからの時代は芸術学校や専門学校で習ったような人が
入ってくるのかもしれんけど、
やっぱり「現場で観て覚えていく」というのが一番大事でしょ。

──

本当に、私も本格的な時代劇をまた作って欲しいなと思っています。

安藤さん

そう、「本格的な」時代劇ね。
CGばかりのゲーム的な時代劇ではなくて、
日本の情景を長回しで映し出すような、
カッコイイ時代劇が受け入れられるようになったら、
時代劇は復活すると思うし、そうしていかなきゃと思うよね。

完

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