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スクリーンを観たからといって、
その仕事内容が容易には見えてこないのが、照明というパート。
しかし、何に合わせて、どの角度からどのような光を当てるか、
その工夫次第で、画面に映るものの質感や時代性、心理面までもが
ドラスティックに変わるのだとすれば、
その影響力の大きさを推しはかることはできるはず。

『千年の恋 ひかる源氏物語』や『長崎ぶらぶら節』など、
過去4度にわたり日本アカデミー優秀照明賞を受賞された安藤清人さん。
照明の道具に「和紙」を用いるなど、
それまでの映像照明になかった独特の発想で、
多くの映画人に愛される映像美を描き出してきました。
今回は、そんな安藤照明の魅力・秘訣にたっぷりせまります。

安藤清人さんプロフィール

──

今日はお忙しい中ありがとうございます。
安藤さんは映像照明に携わって45年というキャリアをお持ちで、
いろいろなお話をうかがいたいのですが、
まずは照明というパートがどういうことをしているか、
基本的なことをざっくりご説明いただいていいですか?

安藤さん

ざっくりと言われてもねえ(笑)
まあ、映像照明というのは、よく
「光と影によってフィルムの上に画を描いていくこと」
というふうに言われるんやけどね。

──

光と影?

安藤さん

そう。照明の役割には第一に、丸い物は丸く、四角い物は四角く、
ちゃんと物が写るように必要な光量を与えるというのがあるんやけど、
それに加えて、光と影の使い方次第では、
画の印象がまったく変わってくるわけよね。

たとえばヤクザものなら、
影を強めに出してコントラストのある画に仕上げたほうが、
その人の怖さや場面の激しさが強調できる。
明治や大正時代の文芸ものなら、影はできるだけ出さず、
柔らかく優しい画にしていくとかね。

──

なるほど、たしかにヤクザものと文芸ものはタッチが随分違いますね。
そういうことは照明技師が決めるんですか?
照明というのはカメラと深く関わっていると思うんですが、
どこからどこまでが照明の仕事なのかとか、イメージしづらいなあと。

安藤さん

うん、それはね、日本と海外の映画の作り方を比べたときに
最も大きく違うところでもあるんや。

安藤さん

日本の撮影所には、昔から撮影部と照明部というのが、
それぞれ独立して別々にあるわけ。
だから、さっき言ったみたいな光と影の出し方や、
どこにどういうライトを置いてどうやって俳優の顔を照らしていくか
というようなことは、照明技師が決められるわけ。
もちろん実際は、監督やカメラマンの意見を聞きながらになるけど、
照明技師も自分の意見を主張することができるわけやね。
でも、海外はそうじゃないんやわ。

──

というと?

安藤さん

海外は「撮影監督システム」なんや。
撮影監督がいて、その下にカメラを回すオペレーターと、
照明を扱うライトマンがいる。
カメラの動きや照明、露出などの画作りは撮影監督が決めて、
ライトマンはそれに従うだけというわけ。

──

なるほど。それでは照明技師としてはさびしいですね。

安藤さん

そう。俺は照明技師だから、日本のシステムのほうがやっぱりうれしい。
だって、「餅は餅屋」でしょう。照明技師が持っている世界観が、
カメラマンが持っている世界観を超えることがあるかもしれない。
だから互いに意見を出しながら作っていけるほうがいい。
でも、日本の映画界にも、
「撮影監督システムのほうが理にかなっている」
という人もいる。難しいところかもしれんね。


びっしり並んだ照明器具。「歴史のある東映京都には、古い器具が多いんや」と説明してくれた。

──

日本のシステムでの照明技師の仕事は、
まずは台本を読んで、どんな照明にするかを考えるところから始まる?

安藤さん

そうやね。台本は必ず読んで、どういう時代背景で、
どういうシーンなのかということを頭に入れておく。
考えるのは現場に行ってからやね。
その場でどこにどういうライトを置いて照らすのか、
助手に指示して仕切っていく。
そのときの天候やらで、光の状況が異なるわけやから、
事前に考えておくようなことはないね。

当たり前やけど、台本を読んでおくというのが重要でね。
自分が作ったライトについて、
「これは夕暮れが近づいてきた17時頃のシーン。
だから、こちらからこういう光を当てる」
と説明できないと、監督もカメラマンも納得しないから。

──

「何時頃の景色」というようなことは台本に書いてあるんですか?

安藤さん

ないね。

──

ないんですか?!

安藤さん

いや、まあ、話の文脈からだいたいわかるから、
あるといえばあるんやけど、はっきりとは書いてない。
それを決められるのが、日本の場合は
照明技師にもある程度任されているということやね。

──

なるほど。照明の技術は、やはり助手時代に覚えていく。

安藤さん

そうやね。衣裳の松田孝さんもおっしゃっていたと思うけど、
映画の世界はね、「教えてもらう」ということはないんや。
見よう見まねで勝手に体で「覚えていく」。
「ああ、こっちからライトを当てると女優の顔がきれいに撮れるんやな」
「このときはこの高さで光を採ってるんやな」
「この人の顔はこっちから光を当てると鼻が高く見える」
という具合にね。一回ライティングして光を計ったら、覚えていくんです。

──

女優の美しさも照明に支えられているんですね。

安藤さん

そう。それと、常日頃にどれだけ光を意識しているかというのが大事なんや。
照明をやってる人間はみんなそうやけど、
自然の中に行ってもどこに行っても、
その世界を作っている雰囲気が、
どういう光と影、色彩によってできているのかというのを常に観ている。
意識しなくても自然とそういう眼になる。
その感覚を自分の中にとりいれて、
その雰囲気をどう映像で表現するか。
どれだけの光をどの角度から、どういう色で照明していくか。
それは誰かに教えてもらってできることではなくて、
その人の力量であり、センスが問われるところやね。


京都ヒストリカ国際映画祭 でのワークショップ企画「京都若手才能育成ラボ」で、
スーパバイザーを務める安藤さん。
毎年同ワークショップには、日本の時代劇を学ぼうと、
海外からたくさんの若手映像作家が応募してくるという。
選考で選ばれた世界各国の参加者を相手に、安藤さんの眼差しも真剣だった。
京都ヒストリカ国際映画祭:http://historica-kyoto.com/

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