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Part2の続き、内藤昭さんのお話から訊かせてください。

松宮さん

内藤さんは、もともと大映におられた方で、
1988年の『華の乱』で、初めて東映作品の美術を担当されたんです。
私はこのときの助手をさせていただいて、
その後は、『姐御』、『社葬』、『遺産相続』、『流転の海』の5作で
手伝わせていただいたんですけど、
この方は、レンズのことも大変詳しかった。

カメラマンにどのレンズを使うのかたずねられるんです。
そして、そのレンズの効果がいちばん出る状態を考えて、セットをつくられる。
「『ここから何ミリのレンズで』と指示できるつもりで図面を描いています」
とおっしゃっておられたくらいで。

──

へー!!

松宮さん

もちろん僕もそうしないといけないんですけどね。
レンズについては内藤さんにいちばんよく教えてもらいました。

──

たしか、もともとは建築を勉強されていた方ですよね?

松宮さん

そうです。だから寸法にも厳しかったですねえ。
実際、内藤さんが考えられた寸法でなければ
いいセットができないんですよ。
2分ずれると強度が変わってしまうというくらい。
研究された結果の寸法なのだろうと思います。


図面を描くには時代考証も欠かせない。
デザイン室と、その隣にある資料室には、建築・仏教・歴史…
あらゆるジャンルの資料がびっしり詰まっている

──

すごいですねえ。デザイナーは、
皆さんが皆さん、そういうわけではないんですね?

松宮さん

もちろん、そうですね。
デザイナーによってテイストが違います。
寸法よりは絵画風であるとか、
色合いや雰囲気を大事にされる方もいらっしゃいます。
どちらがいい・悪いではありません。
もちろん内藤さんは、雰囲気も大事になさっていて、
「ここで表現したいことの核は何か、テーマは何なのか」と。
よくおっしゃっていました。

──

「テーマ」?

松宮さん

はい。あのー、先ほども言いましたけど、
デザイナーは、台本が描く空間を、
眼に見える形にしていくという仕事を担っています。
監督から具体的な指示が出されることはあまりなくて、
ほとんどはゼロからつくり上げていくわけですよ。
その際、「この空間をどういうふうに描きたいのか」という、
表現のテーマ、核のようなものが自分の中にないと、描けないんですね。

──

松宮さんも、テーマを大切にされている?

松宮さん

もちろんそうですね。そうしています。
たとえば、僕が担当させていただいた『桜田門外ノ変』ですけど、
桜田門の前で水戸藩士が井伊直弼を討つシーンがあるでしょ?

──

はい。一番メインのシーンですね。


「桜田門外ノ変」襲撃シーンのセット

松宮さん

あれ、まず、佐藤純彌監督の中に「血を飛ばしたい」というのがあったんです。
それを受けて、
その血を印象的に撮るにはどういうセットがいいかな
というので、
「墨絵のようなセットにしよう」と。それがテーマになったわけです。
要するに、色は、ほぼ白と黒だけにして、
静かなモノトーンの世界の中で血の赤を印象づけようと。
なので、井伊の行列が出てくる彦根藩邸の門だけなんですよ、赤を使ったのは。
それも印象づけるためで、それ以外の場所で色は抑えてあるんです。

──

そうなんですね。あの戦いのシーンで雪が降りますよね?
あの雪が非常にきれいで、その中にバシャッと赤い血が飛んで、
戦いは凄まじいのだけど、色がとても美しかったです。

松宮さん

そうです。あの日は大雪に見舞われていたことが史実にありました。
それと、佐藤監督の構想の中にもうひとつ、
「水戸藩士達が襲撃しようと待っている場所から、
彦根藩邸の門が開き、井伊の行列が見える」
というのがあって、それを撮るには距離のあるセットが必要だったんです。

江戸城の濠(ほり)沿いに大名屋敷がずらりと並んでいる。
そういう壮大なスケール感と、静かに舞う雪の中で、
彦根藩邸の門と藩士たちの戦いを印象的に描きたい、
というのがありましたね。

──

なるほど。その「テーマ」に基づいて、
図面を描き、制作の指示をしていくわけですね。
ちなみにあのきれいな雪はどうやって表現したのでしょう?

松宮さん

雪はね、雪の素材となるものだけで10種類くらいあるんです。
それを全部持っていって、適材適所に置いていきました。
屋根用の雪、石垣用の雪、降らすための雪、地面の雪とかですね。

地面の雪には寒水石を使いました。
あれだけの広さでしょ、全部で70tくらいは使いましたね。
雪の柔らかさを出したくて、
探しまわった末に特殊なクッションマットを見つけてきたんです。
俳優さんたちの激しい立ち回りにも耐えられるようなやつで。
それを地面の上に敷いて、そのうえに寒水石を敷き詰める。
最後はトンボで、グラウンド整備みたいに、きれいにしていきました。
楽しいですよ(笑)

──

はー、すごい。

松宮さん

セットにも工夫があるんです。
屋根は積もる雪の表情が変わるように入母屋造りにしたり
土塀は雪が積もりやすいように築地塀にしたり。

それでもやっぱり、積もりきるまでに1週間くらいかかりました。
撮影が終わると、汚れないように何枚も大きなシートを被せたり、
誰かが歩く度にホウキできれいにしたりして、大変でした。


資料にしたという桜田門周辺の古地図。これを参考に
「一歩踏み入れれば安政7年の桜田門が広がるような」
オープンセットを描いていった

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