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Part.1で、美術の仕事の役割と
深作欣二監督との思い出を語っていただいて
テンションが上がってきたところで(笑)、
次は、美術監督、つまりデザイナーの仕事について
お訊きしていきたいと思います。
前回、「画面のイメージを決めていくのがデザイナー」
だとおっしゃいました。

松宮さん

そうですね。デザイナーは誰よりも最初に、
平面的な、文字面だけの台本から、
登場人物たちが暮らす立体的な空間を描くのが仕事です。
台本を読んで浮かんだ頭の中のイメージを、
どんどんどんどん膨らませていくんです。

──

イメージを膨らませていく。

松宮さん

そうです。台本を読めば、だいたい、
その人の社会的な地位とか、職業、家族構成とかがわかりますよね。
そこからいろいろなことを想像していくんです。
隣近所の雰囲気や町並み、
その人物の性格や趣味。

──

性格や趣味まで?

松宮さん

はい。性格や趣味というのは、その人物が暮らす家の雰囲気を出すために
最も肝心な部分なんですね。
たとえば、料理が好きな人なら、台所にはこだわった調理道具を並べて
どれも使い込まれた感じにしなければならないとか。
小道具ひとつにしても、
「こういう人物像でいいかな」というのはある程度自分の中で持っておいて、
小道具さんと話をしながら具体化していくわけです。

──

なるほど…。

松宮さん

人物像を把握するためには、
原作があるものはもちろん原作を読みますし、
なぜそれをいまこの時代に映画化しようとしたのかというのを、
自分なりに考えます。

──

企画の意図、ということですか?

松宮さん

そうです。
企画側は、いまの時代に発信していきたい人を、
映画なりテレビなりに出すことにしたわけだから、
「では、それはいったいどういう人物像なのか」ということですね。
そこがズレると企画も監督も困ってしまう。

──

なるほど。台本を「読む」と言っても、着目する観点が
素人が読むのとはまるで違う…。

松宮さん

(笑) 普通に読んでいたら絵ができませんよね。
だから、台本にいっぱいいっぱい落書きしていますよ。
もう、ぐちゃぐちゃです(笑)

──

えっ!? その台本を拝見したいです。

松宮さん

あ、すみません。台本だけは自宅に置いているんです。
撮影所に置いておくと、
どこに置いたかわからなくなるんで。
整理するのも苦手だし(笑)
図面ならありますよ。

──

そうですか。

松宮さん

(松宮さん、図面を探しながら)
台本はね、後で読み返したときに、
自分がどんなことを考えていたのかというのが一番よくわかるから、
大切なんです。なくせない。

あ、あった、こういうのが図面ですけど、

松宮さん

これはテレビ朝日の『肉体の門』の図面で、
まだ完成していないときのやつ。
ぐちゃぐちゃ、ぐるぐると線を書いて、ワケがわからなくなってる(笑)
最終的にイメージが固まったのがこっちですね。

──

はー。すごい。こういう図面を、
台本を読み込んだ後に描き上げていくわけですか。

松宮さん

はい。だけど、台本を読んですぐに図面を描くわけではありませんよ。

最初にするのはロケハン、ロケーションハンティングですね。
ロケハンでは、監督と助監督、撮影監督、照明技師、
美術監督、製作部の、いわゆるメイン・スタッフが全員参加して、
撮影に適した場所を探し歩く。

実はこれが、デザイナーの仕事としては
いちばん大事だなと思うんです。

──

どういう意味ですか?

松宮さん

ロケハンは、監督がどういうものを撮ろうとしているのかをつかんでいくのに
すごいいいチャンスなんですね。
たとえば、ある建物を見たときに、監督が「あ、これはなかなかやね」と
まんざらでもない反応を示したとすると、
なぜそう思われたのかを考える。
そこから、主人公の人物像やら、撮りたい絵というのを感じとるわけです。
ある風景をじっと見ているようなら、それは監督のなかで、
イメージを膨らませるのに役立っているのかもしれない。
「じゃあ、どんなイメージだろう」と僕は考えるわけです。

それに、ロケハンに行く車の中では、
けっこういろいろな会話をするんですね。
ほとんど雑談なんだけど、
そのときのスタッフのひとこと一言がけっこう大事で。
カメラマンがどんな思いでいるのか、どんなふうに撮りたいのか、
ガヤガヤおしゃべりしながら探していくという。

──

はー、そうですか。ロケハンは、場所を探すだけの時間じゃなくて、
スタッフのイメージを感じとっていく時間でもあるんですね。

松宮さん

そういうことです。

──

「カメラマンがどんなふうに撮ろうとしているのかを探る」
とおっしゃいましたが、デザイナーにとってはカメラの仕事も、
当然考慮すべきことになってくる?

松宮さん

なってきますね。
ロケハンでカメラマンが、「このアングルがいいですね」と言うと、
僕たちは「じゃあ、こういう感じでセットを建てましょうか」と応じますし、
逆に僕たちが提案することもあります。
たとえば建物でも、雰囲気が出るアングルがあれば、
「こっちからお願いできますか」と提案したりね。

そうそう、カメラのことで言えば、
大先輩のデザイナー、内藤昭さんがすごかったんです。

──

内藤昭さん?大映の美術監督だった方ですか?

松宮さん

そうです。

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