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──

逆に「うまくいかなかったな」と思っている作品はありますか?

松田さん

うーん、あるといえばあるかもしれへんけど、どうやろ。

まあ、「ああ、もっとこうすればよかったな」と思うことはありますし、
監督に「あそこはもうちょっと考えたらよかったな」と言われることもありますけど、
やっぱりよろこびのほうが大きいですよ。
失敗は次に活かせばいいことであって。

──

次に活かせばいいこと…。

松田さん

そうですね。
あ、でも、そういえば『緋牡丹』のときに
1回だけしかられたことがありました。

──

『緋牡丹博徒』のことですね。藤純子さん主演で、
松田さんが、助手ではなく、衣裳担当として関わった最初の映画。

松田さん

そう。あのシリーズは9本とも全部担当させてもらったんですけど、
2本目か3本目でね、黄色地に大きな牡丹の花がのった衣裳を
藤純子さんに着せたんですよ。で、撮ったことも撮ったんです。
撮ったんですけど、あとでプロデューサーに
「お前、なんという衣裳を着せてんねん!」って怒られました。

背景とかご本人のイメージとか、そういうもんに合わん、
ということやったみたいやけど…。私は「いい」と思ったんですけどね。
こっちもプライドがあるから、理由なんて、いちいち聞けへんでしょ。
まあ、私も経験が浅かったんで、「そうですか」ということで、
あれ以来いっぺんもその衣裳は使っていません。

──

ちょっと苦い思い出ですね。
たしか、プロデューサーは俊藤浩滋(しゅんどうこうじ)さん、
藤さんのお父さまですよね。特別な思い入れがあったのかもしれませんね。

松田さん

うーん、そうかもわかりません。まあ、撮ったので、
機会があったら観てみてください。

──

松田さんは時代劇も現代劇もたくさん担当していらっしゃいますが、
ご自身の中ではどちらが好きですか?

松田さん

そりゃ、現代劇よりは時代劇のほうがおもしろいです。
もちろん、現代劇でも、役のイメージに合うように衣裳をそろえるのは
醍醐味がありますし、大変ですけど、
現代劇は衣裳だけ渡していたら、自分で着てしまえるでしょ。

時代劇はそうはいきません。こっちが着せてやらなあかんでしょ。
町娘や武家娘でも、未婚の女性か奥方さんかで着付けも変わるんでね。


『暴れん坊将軍』の「め組」の衣裳

──

たとえば?

松田さん

武家娘でも町娘でも、未婚の女性は、肌をなるべく見せないよう
襟を詰めて合わせます。奥方さんになるとゆったりめ。

お女郎さんはかなりゆったりめにするけど、
芸者になると、あんまり肌を出すと色気が出過ぎるというので、
襟はちょっと詰めるんですわ。この辺は微妙ですね。

あと、江戸の町娘の場合は、襟を黒にするんです。
当時、汚れを防ぐ目的でそうしていたとかで。
武家の娘は「金がある=着物もたくさんある」という設定なので、そんなことはしません。

──

いろいろあるんですね。

松田さん

そうです。けど、現代劇だとそんなことは考えんでも、
自分である程度着てしまえます。
そやし、せっかく担当させてもろうても、
役者さんと身近になる感じがしませんね。

──

そうか、そうですよね。それに、松田さんの頭の中にある
“時代風俗のデータベース”も必要がなくなる…。

松田さん

そうですね。


『大奥』の打掛

──

でも、今、時代劇は昔ほど製作されなくなっていますよね。
松田さんのようには経験を積めないし…。
その辺、若い人はどうしているんでしょう。
そもそも若い世代の衣裳さんは、いらっしゃるんですか?

松田さん

います。20代はいないけど、30代、40代、50代、かな。
そやし、ときどき若いもんが私に電話をかけてきて、
「松田さん、このときの衣裳って、どないしたらいいやろ」と
たずねてくることもありますよ。

そういう時は、「こうこうこうしておいたらいいんちゃうか」と教えます。
教えるというか、まあ、意見を言っておいて、考えてもらいます。

でも、向こうからたずねて来ないかぎりは口を出しませんね。
担当ではない人間が口を出したら失礼でしょ。
一所懸命やっているのに「これは違うで」とは言えませんしね。

それに、衣裳は、自分で学んでいかなあかんと思います。
担当するには、知識だけやなくてセンスも必要やし、
検討がつかなかったら昔の写真を観て勉強したらいいんやし。

一回やってみて、やった作品を自分で観て、
「ああ、こんときはこうしておけばよかったな」と思う。
そうやって学んでいくんが一番です。

完

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