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──

俳優会館の1階。ここで衣裳を着せるわけですか。

松田さん

そうです。
昔はね、人がいっぱいで着せるスペースがないもんやさかい、
外にござを敷いて、男性はそこで着替えてもらうこともありました。
美空ひばりさんや高倉健さんのようなスターさんには、
個室まで私が衣裳を持って行って、着付けさせてもらいます。

やっぱりね、自分のイメージしたように着せていくのは
おもしろいですよ。

──

おもしろい。

松田さん

ある程度経験を積むとね、頭(結髪)から足の先まで
「衣裳はこんな感じで行くから頭もこんな感じでどうですか」
と言えるようになるんですわ。
新人さんはそんなことを言うたら怒られますけど(笑)

頭は結髪の人がどんな頭にするか考えるし、
足の先は小道具の人が、草履にするか下駄にするかを考えるわけですから、
新人はそんなところまで口を出したらあかんわけです。

まあ、もちろん、今でも相手によりますよ。相手がベテランだったら、
「衣裳はこんなのでいきます」とだけ伝えておけば、
向こうもバシッと決めてくれますし、
何も伝えなくてもOKだったりしますから。

──

そうですか。でも、ひとりの役者さんの姿を作るのに
衣裳、結髪、小道具と、スタッフが別々というのもまたスゴい…。

松田さん

ははは、そうですか。

──

素人質問ですが、大スターさんに着付けするときも、
やっぱり緊張しないんですよね。

松田さん

はい。向こうもこっちも仕事ですからねえ。
みんな気さくな人ですよ。なんやかんや話しさせてもろうてね。

そやけど、あの人だけは緊張しました、池内淳子さんだけは。
あのときは、担当が別にいて、私は手伝いで
着物の後ろを持たせてもろうたんかな、
そしたら着物を持つ手が震えてましたわ。

なんでかなあ…。わかりません。あの人は東宝の人で、
東映の人ではなかったからかもしれません。

──

(池内さんのことを)好きだったとか?

松田さん

そうかもしれません(笑)

──

ははは(笑)

松田さん

はははは(笑)

──

そもそも、松田さんがなぜこの仕事に就かれたのか、
教えていただけますか?
呉服関係のお仕事とか、そういうことをなさっていたのでしょうか?

松田さん

いや、まったく関係なくてね、私の親父は京都で土木関係の仕事をしていたんです。

高校を出て、1年くらいは家の仕事を手伝っていたんですけど、
同級生の親父さんで、撮影所の守衛をしていた方がいらしてね。

ある日、「衣裳部の人間が足りんから手伝ってほしい」
という話が来たんです。すると親父が、
「若いうちに他所(よそ)様のメシ食う経験も大事やろ」
と言うもんですから。

──

そうですか。では、入社したときは、ちょっと経ったら、また
家の仕事を継ぐつもりだったんですか?

松田さん

はい(笑)。「ほな、行ってくるわ」という軽い気持ちで行ったんです。
1、2年のつもりやったんですけどね、
気づいたらハマってしまって50年ですわ。はははは。

──

軽い気持ちにしては長いですよね(笑)

松田さん

はは、そうですね(笑)。
でも、あっと言う間ですよ。無我夢中というんかな。

入社は1959年で、
映画の観客総動員数が11億を超えるピークを記録したのが
1958年ですから、当時は最盛期でしょ。

同時に何本も撮っていて、まともに家に帰らせてもらうことも少なくてね、
朝方まで撮影していることもよくありました。
そやから、「辞めよう」とかを考えている暇がなかった。


(『火天の城』で椎名桔平演じる織田信長が身にまとった衣裳)

あと、やっぱり映画が好きやったんでしょうね。
衣裳もおもしろいですしね。

──

衣裳もおもしろい?

松田さん

だって、役者が着物を着いひんことには、
撮影ができひん、芝居ができひんのやから。
ま、照明でも録音でも、どれをとっても同じことなんやけど、
それがないと写真はできひん。
衣裳があってはじめて、「役」ができるし、ドラマができるんです。

──

はい。

松田さん

助手のときはそれほどでもなかったけど、
担当するようになってからはね、
その場面の雰囲気と役者によう合って、いい写真になったときは、
「やったあ!」という感じですよ。

──

やったあ!という感じですか。

松田さん

うん、そうやね。…やっぱりね、そういう意味では、
昔の作り方のほうががよかったですね。

昔はね、撮影が始まってから、「ラッシュ」というのがあったんです。
「ラッシュ」というのは、たとえば1週間なら1週間、撮影をしますよね。
そしたらその1週間分の撮影済みのフィルムを現像したものを、
スタッフ全員でチェックして、出来を確かめる作業のことですわ。

撮影所には、映画館と同じ大きなスクリーンのある試写室があるんです。
そこでラッシュをかけてくれるんです。そのときは、
それぞれのスタッフが自分の持ち場、つまり、
照明担当は照明をチェックして、結髪担当は結髪をチェックして、
私らは衣裳を見るんです。そして、それぞれに
「ああ、マイクの影が映った」だの、
「バックの雰囲気にいまいち合うてないさかい、衣裳変えてくれんね」だの、
言いよるわけです。

──

今はそれをしないんですか?

松田さん

しないんです。ほら、もう撮影時にモニターでチェックできてしまうでしょ。
そやし、監督やその場のスタッフがモニターで確認したら、
事足りるというわけです。
「便利になった」ということやろうけど、現場に行かん我々は、
さみしいもんですわ。

──

そうなんですね。でも、ラッシュでは確認できなくなっても、
最終的にできあがったものを観たときには、やっぱり「やったあ!」という感じがある

松田さん

そりゃあ、ありますよ。そのためにやっているみたいなもんです。

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