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「大奥」(2006年公開)で女優たちが身にまとったきらびやかな打掛や、
「火天の城」(2009年公開)で椎名桔平が演じる織田信長のスウェードの袴など、
映画の特徴や役を表すうえで、衣裳が果たす役割は偉大なものがあります。

どちらの衣裳も、約半世紀のあいだ、多くの映画やテレビで
衣裳に携わってきた松田孝氏が手がけたもの。
2010年には、映画製作の現場を支える人々の栄誉を称える
「日本アカデミー賞・協会特別賞」を受賞した松田氏。
大ベテランの50年は、職人気質そのものだった日本映画の時代を物語ります。

松田孝さんプロフィール

──

日本映画は、歴史と伝統の町・京都が生んだ文化のひとつとも言われます。
そこで、映画について特集を組みたいという話が出てきまして、
東映京都撮影所で働く人々をご紹介させていただくことになりました。
その第一回を松田さんにご登場いただくということで、

松田さん

私でいいんですか?(笑)

──

はい、お願いします。
まずは、衣裳とはどんな仕事なのかを教えていただきたいのですが。
多くの方が撮影所の衣裳の仕事ってなじみがないと思いますので。

松田さん

そうですね。まずね、撮影所の「衣裳部」の仕事として、
作品の衣裳を担当する「衣裳担当」の仕事と、
その下に付いて仕事をする人、
我々は「現場付き」とか「助手」とかいう言い方をするんだけど、
その2つがあると思ってもらったらわかりやすいですかねえ。

──

もうちょっと教えてください。

松田さん

東映の京都撮影所にはね、「衣裳部」というのがあるんですが、
そこの仕事は、まあ、簡単に言うと、
俳優それぞれの役柄に応じた衣裳を準備して、
俳優さんに着付けるというものです。

「部」と言っても、我々は作品ベースで仕事をしていくんでね、
仕事の中心にいるのは、その作品の「衣裳担当」になります。

──

「衣裳担当」。

松田さん

はい。「どの俳優にどのシーンでどういう衣裳を着てもらうか」
というのを考えて、その調達から着付けまで責任を負うのが衣裳担当。

若いうちは、担当に「助手」という形で付いて、
作品を撮るのに必要な衣裳周りのもろもろのことを手伝うんです。

──

では、衣裳部の仕事はまず助手からスタートするんですね。
具体的に、松田さんが衣裳部に入ってから
どんなことをしていたか教えていただけますか?

松田さん

助手として「現場付き」をしていました。
撮影現場に行って、俳優さんの着物の乱れを直したり、
着替えるのを手伝ったりする仕事。

現場付きは、たいてい助手がするんです。
担当は現場に行かず、撮影所で着付けをしたり、
作品の衣裳を考えて準備するのに忙しいですから。

なんせ、私が入った当時は一度に8本も9本も撮っているわけやから、
ロケに付き合っている時間がないんですよ。
今も、現場付きは助手の仕事ですね。

──

じゃあ、現場には経験の浅い人が行くわけですか?
現場に行けるようになるまでにも経験がいりますよね。

松田さん

そうですけど、経験いうても、撮影所に入ってから数週間のうちに、
衣裳部の仲間にある程度のことは教えてもらうんです。
主役やスターさんの着付けは担当がするけど、
役がつかない通行人の着付けとかは助手でもバンバンやらされますから、
すぐにできるようになります。
ある程度できるようになったら、「お前、もうこの写真なら現場行けるな」
という上の判断で、現場に行かせてもらえます。

(注:撮影所では、映画のことを「写真」という)

──

なるほど。


数々の映画が生まれた東映京都撮影所の正門

松田さん

現場付きもなかなか難しい。
俳優さんが着崩れしたら、さっと直しにいかないかんでしょ。
慣れないうちはタイミングがわかりませんから。

──

タイミング?

松田さん

ほら、俳優さんも、ちょっとの間に台本を読み直したり、
セリフを読み上げたり、いろいろしはるからね。
そんななかで衣裳を直させてもらうんも、すぐにできることじゃない。
撮影の邪魔もしたらあかんでしょ。
そやし、照明を調節しているときとか、うまいタイミングを見計らって、
さっと直しにいくんです。

──

そうか。緊張しますね。

松田さん

でも、それが現場付きの仕事ですから。緊張はするかもしれないけど、
私はあまり考えたことがなかったです。余裕がなかったですね。

そういうことをやっているうちに、
けっこういろいろなことを覚えていくんですよ。

「この時代の映画にはこういう衣裳を着せるんだな」とか、
同じ時代でも、身分によって着せ方が違うんで、
「こうすると町娘の着付け、こっちが武家娘の着付け」という具合にね。

当時の衣裳部には、三上剛(つよし)さん、
森護(まもる)さん、佐々木常久(つねひさ)さん、
上野徳三郎さんとかがいらっしゃって、
それこそ市川右太衛門さん、片岡千恵蔵さん、中村錦之助さん、
月形竜之介さんといった歴史に残る大スターの皆さんに、
なんやかんやと話をしながら衣裳を着せておられるのを、
手伝わせてもろうてました。

昔ですから、「見て真似る」と言うんですか、
あんまり教えてもろうた記憶はありません。

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